「身近にあるもので生活できるってことは、本当に豊かだと思う。そういうことを伝えていけたら。」
木工を生業とする理由をそう語るのは、「なごみのき」の山上浩明さんです。
この日は糸島を離れ、佐賀の武雄市にやってきました!
「くぬぎの杜」という、くぬぎの木に囲まれた場所に椎茸栽培施設やカフェ、山上さんの工房など、様々な建物が集まっています。
その気持ちのいい森の中にある工房へお邪魔してお話を伺いました。
糸島の木で作りたい
ご存知でしょうか。
糸島くらし×ここのきで販売しているなごみのきの「ちいさいボウル」や「炒めへら」は、糸島の桧のみを使って作られています。それは、糸島くらし×ここのきとの出会いがきっかけでした。
ここのきが開業する前、杉の木クラフトの溝口さんの紹介で山上さんと店主・野口は知り合います。
当時店主が糸島の山に入り、間伐の仕事をしていたこともあって、「野口さんが切った木を使おうという」ことで作り始めたとか。
もともと、人の想いのこもった木を使って作品を作ることを大切にしていた山上さんと、「山を元気にしたい」という店主の気持ちが重なって実現した作品だったんですね。
夫婦、そして家族へ
山上さんと奥さまの順子さんは、木工家ご夫婦。
奥さまが作るのは、「組みもの」と言って、家具などに用いられる木を組み合わせる手法の作品。
手づくりとは思えないほど綺麗で精密です。
一方、旦那さまである浩明さんは、ひとつの木を掘って作る「刳(く)りもの」と呼ばれる作品を多く作られます。カップやお皿など美しい木目と握り心地に温かさを感じます。
「いやー僕は奥さんみたいなのは苦手なんだよねー」と照れたように笑う山上さん。
お互いに異なる感性と得意分野を持ち、日々刺激し合い、頼り合える関係性が本当に素敵だなと思いました。
そして最近は、第一子が生まれたばかり。可愛い女の子だそうです。
豊かな自然と木工家のご両親のもとで、きっと真っすぐに育っていくのだろうなとあったかい気持ちになりました。
優しい家庭が築かれていくのが、今からとても楽しみです。
山上さんの歩み
山上さんが木工を始めたのは、32歳の時。
当時、自動車部品メーカーに勤め、金属加工の仕事をしていた山上さんですが、ある時ナイフ一本、人力で加工ができる木の良さに魅せられます。
そして、14年間続けたサラリーマン生活に終止符を打ち、木工の世界へ入ります。
退職後は、飛騨高山の職業訓練校に通い、その後は岐阜県白川郷の茅葺き屋根の葺き替えをしたり、古民家再生の会社に入り、瓦屋さんや左官屋さんの手伝いなど、本当に様々なことをしたそうです。
「当時は大工仕事だけをしたいと思っていたけど、今思えば何も無駄にはならなかったね」と言います。
2014年は、木工家としての道を歩み初めて14年が経つ年。山上さんがサラリーマンとして勤めた年数と同じ年月です。
「サラリーマンを辞める時にサラリーマン的な考えが抜けるまでに、同じ年数かかるだろうなと思っていたんよね。だから14年は辛抱せないかんと思いよった。」
「毎日同じことを繰り返すと、自分がどこにいるのかが見えてくるよ」
志をもって、歩み続けている人の言葉は、やはり重みがあります。
15年、20年、これからずっと先まで、どんな展開が待っているのか楽しみですね。
初めてのろくろ体験!
インタビュー後は、なごみのきの人気商品「炒めヘラ」を帯ノコで削るところを見せてもらいました。
しかし、恥ずかしがりやの山上さんは、「もういい?」と照れた様子で早々に作業を切り上げ、私たちに桧のお皿を作る体験をさせてくれることに・・・!
器など、ひとつの材を深く削るのには、「ろくろ」という機械を使います。
陶芸などで使うクルクル回る機械でおなじみの「ろくろ」ですが、木工においても、木を回転させて削るための機械のことを指します。
早速、ろくろでお皿を作る体験をさせていただきました!
まずは、木地鉋(きじがんな)という長い鉄の先についた刃物で、おおまかに形を作ります。
それから木地刀(きじがたな)という短く薄い刃物で、表面を凸凹を綺麗に整え、最後は3種類の荒さのサンドペーパーをかけて仕上げをします。
この作業をお皿の内側と外側、両方にしていきます。
作業中は隣で山上さんがサポートしてくれていたので、安心していたのですが、木地鉋をかける時は、想像した以上に押さえる力が必要で苦戦しました。しかし、途中で隣から「木に負けるな!」と応援してくれたことで、「自分で向き合って作らなきゃ」と思い、稀に見る集中力を発揮して最後まで作り上げることができました!
削りたての桧の香りとスルスルとした手触りが気持ちよく、お気に入りの一枚を作ることができました!
初めてのろくろ体験を満喫できただけなく、木のこと、つくり手のことを体験として知ることができるとても貴重な機会になりました。
通常は、木を乾かす作業や塗装もあり、この何倍もの作業量があります。
私は、浅いお皿をひとつ作るのにドッと疲れましたが、これを同時にいくつも作る作業はとても大変であることを身をもって知りました。
あの「ちいさいボウル」の綺麗な曲線も表面の心地良い手触りも、繊細な手仕事の積み重ねによるものだ思うと、これまで以上にひとつひとつの表情を手に取って眺めたくなりますね。
身近にあるもので楽しむ
インタビューの後は、工房の近くで野いちごを摘み、裏にある竹林では「わらびや筍も採れるよ」と教えてくれた山上さん。
柿の木の枝をちぎって、同じ集落内で飼われているヤギに食べさせたり。
最後には、樹齢1000年の大きな大きな楠まで案内してくれました。
身の回りの自然だけでこんなに感動できて、一緒に居る人と楽しい時間を過ごせるって素晴らしいことですね。山上さんの言う「身近なもので暮らせる豊かさ」を少し知ることができた気がします。
一緒に楽しんでくれる少年のような
そのままの自分を受け入れてくれる友達のような
ちょっと遠くで見守ってくれるお父さんのような
そんな山上さんの優しい人柄をたっぷり堪能できた、大満足の一日でした。
インタビュー 前田 綾子
写真と文 山下 舞
取材日 2014年6月