みるみると移り変わる、空に浮かぶ雲。 雲自体に意図はなくとも、不定形な雲を 見上げる人が各々「ドーナツみたい」「鳥みたい」などと、自由気ままに意味をつけます。
雲が好きだからこの工房名にしたという「工房 雲」の小野寺幸裕さん。
大切にしているのは、使い手にとっての意味。
見る人が雲に意味づけするように、 あくまで使い手にとって使いやすい形をつくることを大切にしています。
一口に使い手目線と言っても、小野寺さんは「好き」「楽しい」という使い手の 気持ちにも価値を置き、遊び心を大切にしているところが印象的です。
たとえば、 お箸にはさまざまな樹種が使われ、種名も表示しています。それは「この木はどんな木なんだろう」と考える楽しみも、 使い手の楽しさのひとつだから。
それは まさに「雲」の楽しみ方のよう。
小野寺さん自身は「立っている木はわからないけれど、板になれば木の種類がわかる」と笑います。
お客さんから聞かれ るからと木の種類について調べることも多いそうで、最近では名前の由来が面白かったと教えてくれました。
生きた状態の木のことはわからないと言っても、そこは木を使う人。やはり森のことを深く考えてもいます。
木は大切な素材であり、森はその素材を生み出してくれる場。
小野寺さんは小野寺さんの 立場から、使い手となる多くの人に、木にふれる喜びやその価値を伝えています。端材やかんなくずなども、大切な木の一部。
小野寺さんの工房ではそれらがゴミにはならないと言います。
近くの牧場で かんなくずを引き取って活用してくれたり、必要な人が端材を薪として引き取ってくれたりしています。
以前はかんなくずを砂場のようにして遊んでくれる子どもまでいたんだとか。
そんなさまざまな「使ってくれる人」とのつながりのおかげで、「もったいない」という気持ちに ならないのがうれしいところです。
糸島では多くのつくり手同士もつながっています。それぞれに個性があり、得意なことも苦手なことも違うところがおもしろいのだと言います。
作品づくりでうまくいかないことがあると、隣の工房に行って道具を借りて、使い方を教わることもあるとか。もちろん逆に、小野寺さんの技術が他のつくり手にとって助けになることもあります。
森との距離感はつくり手によってさまざま。ただ、それぞれがつながり合いながら木に関わっているということに、大きな意味がありそうです。