志摩の小金丸に、いくつかの工房が集まるちょっとした集落、通称:やかまし村があります。ここのきのお店で取り扱いのある、『タビノキセキ』や『家具工房CLAP』もその集落にお店を構えていらっしゃいます。意図的にではなく、たまたま集まったという、そんな偶然が重なった場所に工房を構えるのは、大内龍太郎さん・由美さんご夫妻の『陶工房Ron』。今回は、そのお二人を訪ねてきました。
【はじまり・・・】
龍太郎さんが糸島へ移り住み、名前の龍=ロンをとって、『陶工房Ron』を初めたのが10年ほど前。途中で由美さんが加わり、それぞれ違う作風を表現しながら、『陶工房Ron』として現在は2人で活動されています。
龍太郎さんは物づくりがしたい、由美さんは長く続けられる仕事がしたい、というそれぞれの思いから、愛知県にある瀬戸の訓練校へ1年間通い、窯業の道に入っていったそうです。
【大内 龍太郎さん:継承作品ではなく自分流を表現する】
龍太郎さんが作る作品と言えば、mizuiroシリーズ。糸島の海をも思わせる様な水色は、涼しげでもあり、またかわいくもあるようにも思います。最近では、無造作に引かれた線と3原色の色が施された新シリーズも加わり、今までとは少し違った作風が増えています。龍太郎さんの作風は、伝統的な焼物というより、現代アートに近い焼物が多く、自分の作りたいものを作るという、こだわりがそこに表現されているように思います。
工房を拝見してみると、テストピースと呼ばれるものが並んでいました。これで、色・質感・状態の試し焼きを行うそうです。このように、試行錯誤を繰り返しながら、オリジナルの釉薬を作り、作品を作り上げていく。そういった所が、龍太郎さんのこだわりなのではないかと思います。
【大内 由美さん:同じモノはつくれないし、つくらない。】
由美さんの作風は、龍太郎さんとは全く異なり、作品のほとんどに動物や植物の絵が施されています。動物好きという事もあり、動物を描く事が多く、最近はシロクマ、ネコ、アルパカの作品が製作されています。
筆を使用するのではなく、一つ一つ針を使って細い線を描き、描かれた線の溝に鉄を流し込んでいくことで、動物の輪郭を表現する。特に動物の絵は、写真集を参考にしながら描く事もあり、描かれた動物達は、由美さん流にアレンジされ、筆を使って釉薬で色が塗られていきます。筆で描く事により、ムラが出てしまったり、色がはみ出てしまったりと失敗する事も多くあるそうです。
このように、様々な行程を経てあの絵柄が出来上がっている事を知れ、由美さんの作り出すひとつひとつの作品の魅力をより感じる事ができました。
由美さんの作り出す作品は、一つとして同じものがなく、由美さんの世界観がそこに表現されているように思います。器は由美さんにとってキャパスなのではないでしょうか。また、ひとつひとつが違う作品こそが、由美さんのこだわりであり、魅力なのでしょう。
【これから】
工房でお話を伺っていると、ネコが一匹やってきました。ネコの名前は「リン」。動物シリーズでネコのモデルとなっているのがこのリンちゃん。工房では、リンちゃんと共に、二人の時間が流れており、時計の時間とは別の時を感じるインタビューとなりました。
そんなステキな陶工房Ronには、これからも龍太郎さんらしい、そして由美さんらしい作品が並び続けるのだと思います。
インタビューと文 前田 綾子
写真 山下 舞
取材日 2014年6月