伝統的な唐津焼の技法に現代風のアレンジを加え、敷居の高い唐津焼をより身近に感じさせてくれる「雅樂窯」の陶器。
作り手の伊藤さんにお話を伺った。
展示室の中には様々な陶器の数々。表面がつるつるしたものから、ザラザラでこぼこしたもの、眺めていると一口にお皿や湯呑と言ってもいっぱいあるんだな、と始めに思った。
【こだわりを支えるもの】
作り手の伊藤さんは、とても優しそうな方で、いわゆる漫画のような堅物の芸術家とは全然違っていた。席について、様々なお話を聴いた。
焼き上がりは、季節や天気に左右されることや、窯を開ける時が一番ワクワクすること、陶器を作るときのこだわりなど。
実際に湯呑やお茶碗を触らせてもらうと、想像以上に軽かった。飲み口を厚くして軽いものを作る技術はとても難しいそうだ。
私は以前に別の機会の時に、湯呑を作ったことを思い出しながら聴いていた。底が分厚くて飲み口が薄い、ひび割れた面白いくらい不格好なものができた。私が不器用なのを差し引いても、陶器を作る作業は繊細で一朝一夕にできるものではない。
どんな形にして、どの土を使って、どの釉薬を使用するかを選び、焼き上げる。焼き上がりによって、上手くいったりいかなかったり、時には予想外のものができたり、そういった数々の思索を通してやっと一個のものが誕生するのだ。
伊藤さんが今までやってこれたのは、奥さんの支えがあったからだと言う。唐津から糸島に移住する前は、「自分の器を理解できる人にだけ分かってもらえればいい」という考え方だったそうだが、「唐津焼の良さを知らない人にも分かってもらおう」という奥さんの考えによって、今のようにここのきさんなどの地域に根付いた情報の発信源に置くようになったそうだ。
【最後に】
ご夫妻が仰っていたのだが、まだ小さなお子さんには伊藤さんの作った唐津焼を使わせているそうだ。しかし、お子さんがそれを割ったことは一度もないという。
始めから陶器を使わせて大事に使うことを教えれば、意外に子どもは投げたり割ったりしないのかも知れない。
雅楽窯さんのお子さんも陶芸家になるのだろうか。
そうやって受け継がれていく伝統とともに、作られたものからそれを手がけた人々の心に触れることができた一日だった。
インタビュー 千々岩哲郎
文 今村 栞(インターン生)
写真 山下 舞
取材日 2013年8月