迷ってしまい、なかなか家にたどり着けなかった『布工房 一本』岡本理香さんのお宅。細くて、くねくねした道の奥に古いお家の集落があります。その内の一軒が理香さんのお宅。到着するやいなや、『わぁ〜。』と思わす喜びの声をあげてしまいました。実はこの家、カントリーチェアの仲村さんが建てられお宅。以前、仲村さんにインタビューをした際にその事を伺っていた為、今回のお宅訪問を実はかなり楽しみにしていました。カントリーチェアの仲村ご夫妻と岡本一家は仲良しで、その繫がりで5年前にこの家が誕生したそうです。
外観に魅了されながら、お宅の中へお邪魔して、理香さんにお話を伺いました。
【思いのままに。】
お母様が木目込みの人形を作られる仕事だった関係で、小さい頃から手仕事を見て、触れて育った理香さん。「気がついたらいろいろな小物を作ってたかなぁ」と布モノを作り始めた原点を話してくれました。
高校を卒業した後、喫茶店を開きたくて、参考にするお気に入りのお店探しを始めます。色々なお店をまわったけれど、なかなか見つからない。そんな時に求人募集の張り紙を見てなんとなく入った、「PAITITI(パイチチ)」エスニック系の小物や洋服のお店。店内には、理香さんにとってときめくモノばかり。そして、そこで働くようになり、様々な布に出会い、布について教えてもらったり、知識を増やしつつ、そこにある端切れ布で小物を作り初めたのだそうです。
その後、北海道、沖縄、熊本と様々な場所を経て、自分が生まれ育った糸島市へ戻ってきたといいます。
熊本にいた頃は、自分のお店を持ち、自作の商品や仕入れた商品を販売していたそうです。場所が阿蘇だったこともあり、旅館の暖簾や表札のデザインをし、字を書いたりもしていたそうです。その頃は、木目込み人形や和物を多く作っていたというから、理香さんの技術の幅の広さが伺えます。
「やりたい事はなんでもやったかなぁ」とちょっと昔を懐かしむように、話をしてくれました。
【端切れ布から生まれるモノ達】
『布工房一本』と言えば、思わず手に取って見たくなる可愛い布小物達。鍋つかみ、コースター、巾着といった暮らしの道具から、あめ玉入れネックレス、ブローチなどのアクセサリー、動物のぬいぐるみまで、幅広い作品を展開されています。その作品達のほとんどは、ステキな端切れ布から製作されており、理香さんのセンスが加わり、布や色の組み合わせからあの絶妙な可愛らしさが作り上げられています。
そんな端切れ布は、「PAITITI(パイチチ)」時代の店長から仕入れたモノ。現在は、独立され、洋服などを作っているそうで、その際に出る端切れ布を分けてもらっているそうです。端切れ布といっても、ひとつひとつ独特で、丁寧な刺繍が施されていたり、様々な色があったり、肌触りも違うし、厚みも違う。そんな布達をどう組み合わせようと考える事が楽しい時間だと理香さんは語ります。
「布を使い切る事が目標」という理香さん。布を裂いて紐を作り、それを編んだり、小さい布は、動物の鼻に使用したり、さらに小さいモノは、『一本』のタグとなります。ひとつひとつ丁寧に最後まで使っていくプロセスを、理香さんは本当に楽しみながらやっている事を感じとることが出来ました。
【気持ちを向ける】
作品を作っている所を見せてもらえないかとお願いすると、気持ちよく承諾してくれ、チクチク針仕事を始められた理香さん。
チクチクしながら「動物達は、きちんと自分の気持ちを向けないとかわいい顔にならないんだよね。だから、気持ちが向かないときは、違う仕事をして、仕上げるっちゃん」と自分の気持ちを向ける事を大切にしている理香さんがいました。
そして、とても嬉しそうに理香さんが持ってきたもの、それは娘さん2人からの誕生日プレゼント。一つは、理香さんの作るクマのぬいぐるみを真似て作られたもの。もう一つは、オリジナルのぬいぐるみ。理香さんの作品に負けないくらい可愛い作品です。理香さんがそうであったように、この2人の娘さん達もまた、母親の手仕事を見て育っているんだと、理香さんがそうで会ったように、母と娘のすてきな関係を感じました。
【一本】
最後に、「名前の由来ってなんですか。」と尋ねてみました。
「朝、歯を磨きよった時、『一本』!!!って、思ったっちゃんね。」
と理香さんらしい回答で、思わず大笑いしてしまいました。
どうやら、歯を一本一本磨いていた時に思いついたんだそうです。おしゃれな名前や覚えにくい名前は嫌だと考えていた事もあり、名前はシンプルな『一本』。柔道の一本背負いのような勢いで話をする理香さんは、とても生き生きしていました。
【これから】
「これからの展望とかありますか」という質問に「庭を作りたい。」と真っ先に答える理香さんは、自分の思いのままに行動し、やりたい事を楽しみながらやってしまう人なんだなと感じました。
もちろん、今の作風の作品に加え、藍染めとか、日本の古い家に置いてもかっこいいものを作りたいという気持ちも語ってくれました。
阿蘇にいた頃の純和小物や今ここのきで販売している可愛い作品を見ても、場所に会わせてものを作り出せる幅の広さが理香さんの大きな魅力だと思います。そして、「昔は分からなかったけど、今になって、母の仕事の凄さが分かるようになってきた。」と語る理香さん。
これから生み出されていく『布工房 一本』の作品が楽しみです。
インタビューと文 前田 綾子
写真 山下 舞
取材日 2014年5月